経営者向けビジネストークセッションから占い師への道

ビジネストークセッションとは?コロナ禍の先を見据えた高橋社長のビジョンを伺いました!

新型コロナウイルスの感染拡大はあらゆる職業に影響を及ぼした。
各地で紙芝居をして日銭を得ていた河原者の私は、たちまち客先を失った。全く職種の違う友人知人からも、今後の見通しが立たないと不安の声を聞く。
看板の会社・興和サインとて例外ではないだろう。
しかし、高橋芳文社長は「今こそ新しい挑戦をしたい」と言う。
多くの企業が現状に頭を抱える中、その目にはどんな未来が見えているのだろうかー?

「仕事だから」と見過ごしたくない

「自分の本当にやりたいことをずっと探して生きてきました」

興和サイン・高橋芳文社長(以下「高橋さん」と表記)はそう言って笑った。
父君の始めた看板会社・興和サインを継いで15年。先代が築いた鉄道看板事業を基盤に、「エンタメ系看板屋」として個人店の施工も手がけ、数多くの個性的な看板を世に送り出した。一方で大手企業とも契約し、順調に業績を伸ばしてきた。

「儲かることが社員を守ることだと思ってきました。だけど、人はお金のためだけに生きるわけじゃない。『仕事だから仕方ない』って、今まで自分をごまかして、見過ごしてきたんじゃないかと思うんです」

5月は緊急事態宣言の中、新規の仕事を断った。売上は激減したが、社員の安全を第一に考えての判断だった。

でも、相手先の会社によっては、『仕事なんだからやっといてくれ』なんて平気で言うんですよね。自分のところの社員は早々に在宅ワークにしておいて。末端の現場で働く人間のことを考えていないんです。たとえ儲かっても、もうやりたくないことはやりたくない」

穏やかな口調だが、そこには静かな怒りと決意があった。

独自の図案設計

それでは高橋さんの「やりたいこと」とは何か。
「こんなこと言うと引かれちゃうかもしれませんが」と前置きして語られたのは、意外なプランだった。

「占術を使って独自の看板を作っていきたいんです。『看板』というと『お店のもの』って限定されちゃうけど、それだけじゃなく、個人のお客様にも『マーク』として提供していきたいなって」

ーせ、せんじゅつ……?

ポカンとする私に高橋さんは説明する。

「つまり、その人の持って生まれた運や才能を生かせるような図案を設計するんです。看板屋は看板という『モノ』を作る仕事ですが、それをもっと抽出して、デザイン・図案設計といった方向にも力を入れていこうかと」

ーええと、高橋さんが図案を作ったマーク(?)を持っていると、運が開けるんですか?

「ものすごく省略すると、そうですね。僕は陰陽五行や易経、四柱推命などを勉強してきました。これまでも、5Eve(ファイブ)やマインドマーク神板といった商品を販売しています」

5Eve(ファイブ)やマインドマーク神板

ー申し訳ないですが、ちょっとよくわかりません。

「まぁそうですよね(笑)。社員の中からも『社長はスピリチュアルにハマっているのか?』と怪しむ声が聞こえます。でも、僕がやっているのは古の叡智を生かした占術と、それを形に落とし込むこと。スピリチュアルとは違います」

ーいにしえのえいち……?

「はい。陰陽五行は古い思想であり理論なんです」

コロナ禍を見据えて

なぜ興和サインはこういった方向に舵を切ろうとしているのか。

「アフター・コロナは、もう宣伝広告の時代じゃなくなると思うんです」

高橋さんは淡々と言う。

本来ならば看板は、一度作れば100年は保つようなものだ。代々続く老舗には、年月によって深みの出た看板がどっしりとかかっている。
しかし昨今は、駅の広告のように、月イチで使い捨てされるものが業界の主流となっていた。興和サインもまた、そうした宣伝広告の看板を手がけてきた。定期的に新しいものに入れ変わるのは、儲かる仕事でもあった。

「でもこれからは、『街に出て広告を見る』ということは減っていく。コロナの影響のみならず、スマホ、SNS台頭の影響も大きいですね。そうしたとき、今までの経験や能力で、どうやって人の役に立てるか改めて考えたんです」

高橋さんによれば、看板屋とは黒子のようなものだ。
クライアントの意図を汲み取って形にするだけではなく、さらにどうすればクライアントのターゲット層に伝わるか、「クライアントのクライアント」という存在までを考えるのが仕事だという。

「僕はもともと、人のよいところを切り取るのが得意でした。また、その人の言いたいことは何か、そもそもの素質はどんなものかということも見えるタイプだったんです」

こうした能力と、長年クライアントに向き合ってきた経験、そして占術の知識を使い、今後は企業や店舗だけではなく、個人を相手に受注を増やしていくそうだ。

「あ、誤解して欲しくないのですが、宣伝広告の仕事を完全にやめる訳ではもちろんありません。今までの大切なお客様との信頼関係がありますから、やれることはこれからもやっていきます。
だけど、今までの仕事だけでは生き残れない。
そういう危機感があるのと、『仕事なんだから、嫌だろうが何だろうがやれ』という命令には反抗したくて、占術や独自のデザインといったものに力を入れていこうと思ったんです」

ビジネストークセッション

高橋さん自身としては、ビジネストークセッションも積極的に行っていくという。

ービジネストークセッションってなんですか?

「対面、もしくはオンラインで言葉を紡いでいく、カウンセリングのようなものです。僕が受けられる相談は、仕事の悩みやブランディング(見せ方)、開運について。必要に応じて占術に基づく鑑定もします」

今は倒産や失業が相次ぎ、多くの人が不安を抱いている状況だが、こんなときこそ自分の心の声に耳を傾けるべきだと高橋さんは言う。

「必ずしもポジティブな声じゃなくていい。むしろ、社会に適合しようと無理に不安や恐れを押し込めるより、きちんと自分の気持ちと向き合うことが意識変容につながります。僕ができるのはそのサポートです」

思えば我々はずっと、社会の落ちこぼれにならないよう走ってきた。きちんとした大人になることは、うまく社会に適合することだった。
だが、はたして社会に適合すれば幸せになれるのだろうか。
そもそもこの社会自体、もう破綻しかけている。

「モノを大量に作って消費する時代は終わりました。これからは、ガンガン人数を増やして儲けるのではなく、使い捨てのできない個人を尊重した仕事にシフトしていきます」

ビジネストークセッション

イラスト/浦田 美空

 

「古の叡智」も「ビジネストークセッション」も私には耳慣れない言葉だが、言葉にはそれを使う人の背景が端的に現れる。
高橋さんは、私とは違う文脈を生きてきたのだろう。
これは私の個人的な意見だが、占いとは解釈だと思う。いかに相手の文脈を読み、解釈するかだ。
まだ高橋さんに占ってもらったことはないが、きっとお願いしたら、思いもよらない解釈をしてくださるだろう。
その方がいい。予測のつくような占いなんてうんざりだ。

最後に高橋さんはボソッと言った。

「ゆくゆくは、『興和サインていう不思議な看板屋さんがあるよ』って言われるようになりたいです」

もう十分に不思議な看板屋さんである。
「不思議」とは予定調和からの逸脱だ。そこには自由がある。
長年優秀なビジネスマンとして会社を経営してきた高橋さんが、このコロナ禍に新たな挑戦を始めることに、震えるほどの自由を感じた。まるで冒険小説の冒頭のようだ。

誰も見たことのない物語が始まろうとしている。

文・構成/飯田 華子

 

誰も見たことのない物語が始まろうとしている。

イラスト/飯田 華子

 
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